経営手がかりシート・2101

(令和3年(2021年)9月版)

 

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2101開発・出願前の先行技術文献調査

 

●テーマ名(詳細版)

  研究開発前・出願前の先行技術文献調査

  先行技術文献調査の代わりのパイロット出願

 

<<テーマの説明音声データ>>

(令和4年1月30日改訂前の音声データです)

 

テーマの説明

 このテーマは、研究開発前や特許出願前などに、自社が研究開発する(または、研究開発した)技術について、先行する技術・特許出願・特許権が存在するか否かを調査すること(先行技術調査・先行技術文献調査)に関するものです。

 下記の事例によれば、先行技術調査を行うタイミングを、研究開発の様々な段階にあわせて設定することもあるようです。

 

先行技術調査を行う目的

 先行技術を調査することは、研究開発対象の技術が特許権を取得できるか否かを予見するために行われることが多いです。また、先行技術を調査することは、業界や他社の動向を把握して、自社の研究開発の方向性を探るために行われることもあります。事前の先行技術の調査をせずに、研究開発を行った場合には、時として当該研究開発が無駄になり、自社の研究開発のための資源の浪費につながる可能性があります。

 

先行技術調査の実施主体

 先行技術の調査を、自社で行うことも、外部の専門家(弁理士など)に依頼することも、いずれもありえます。自社で行う場合には、先行技術の調査の手法の実践を自社の人材ができるようにする必要があります。例えば、特許情報プラットフォームJ-PlatPatを用いた検索手法は比較的容易に習得できます。

 

無料の特許文献データベースもそれなりの調査が可能

 特定の発明(技術)について特許出願した場合の進歩性の有無を調べたいときに行うタイプの特許文献の調査であれば、無料で利用できる特許文献データベースでもそれなりのことが可能です。(なお、特定の技術分野における特許出願の動向を調べるタイプの特許文献の調査の場合は、市販の特許(知財)分析ソフトウェアを用いるか、自前の特許(知財)分析用データベースを構築することになる可能性が高いです。参考テーマの項目に挙げた5641のテーマ「データベース・知財分析ソフト」をご参照ください。)

 

特許情報プラットフォームJ-PlatPat

 日本語を利用できる無料の特許文献データベースとしては、日本国特許庁が管轄する工業所有権情報・研修館(INPIT)の特許情報プラットフォームJ-PlatPatURLはこのテーマの参考情報の項目に掲載しています。)のものがよく知られています。J-PlatPatのマニュアルURLはこのテーマの参考情報の項目に掲載しています。)もウェブ上で公開されています。

 J-PlatPatの特許・実用新案検索においては、用語や出願人名といった検索キーのほかに、特許文献を技術内容で分類したものとして、国際特許分類IPC、(IPCをさらに細分化した日本国特許庁独自の分類である)ファイル・インデックスFIFタームを検索キーとして用いることが出来ます。IPCFIFタームの詳細については、J-PlatPat内の特許・実用新案分類照会(PMGS)URLはこのテーマの参考情報の項目に掲載しています。)にて調べることが出来ます。

 

高度検索閲覧用機器(審査官端末)の利用

 日本国特許庁の審査官・審判官や、先行技術文献調査の外注先である登録調査機関の調査員のための特許文献データベースを、高度検索閲覧用機器(審査官端末)を用いて利用することが出来ます。現状では、特許庁庁舎2階(令和4(2022)221日から4階)の公報閲覧室と、工業所有権情報・研修館近畿統括本部(INPIT関西)の高度検索用端末利用室にて、高度検索閲覧用機器(審査官端末)が公開されています。詳しくは、このテーマの参考情報の項目に示すURLの先の情報をご確認ください。審査官と同様の先行技術文献調査が可能ですので、特にJ-PlatPatよりも精度の高い先行技術文献調査を行いたいときには、高度検索閲覧用機器(審査官端末)を利用するという選択肢を検討することになるでしょう。なお、高度検索閲覧用機器(審査官端末)の利用は無料であり、印刷等はモノクロ110円です。

 

欧州特許庁(EPO)の特許文献データベース

 英語で検索出来る特許文献データベースで、かつ、世界の特許文献を検索できるものとしては、EspacenetPatent searchAdvanced searchURLはこのテーマの参考情報の項目に掲載しています。)のものが知られています。外国での特許出願を調べる際や、ある特許出願のパテントファミリ(同じ技術(発明)の内容の特許出願を複数の国に行った場合の一群の出願)を調べる際に利用出来ます。検索キーとして、国際特許分類IPCをさらに細分化した分類であるCooperative Patent Classification(CPC)を用いることが出来ます。(なお、米国特許商標庁USPTOも特許文献データベースを公開していますが、Espacenetのほうが利用しやすいと思われます。)

 

先行技術文献調査(特に、特許文献の調査)の際の留意点

 先行技術文献調査(特に、特許文献の調査)を行う際に留意する点は多々あります。例えば、このテーマの参考情報の項目に挙げています「検索エキスパート研修(上級)テキスト 第四版 先行技術文献調査実務」や「INPITテキスト 調査業務実施者育成研修 検索の考え方と報告書の作成」をご参照ください。(なお、これらのテキストには、高度検索閲覧用機器(審査官端末)の使い方への言及もあります。)あるいは、特許審査や審判の経験のある弁理士に尋ねてみてもよいでしょう。

 先行技術文献調査(特に、特許文献の調査)において留意する点を敢えて挙げるとすれば、以下のことを指摘出来ます。

 第一に、どういう構成(発明特定事項)の技術(発明)を探そうとしているのかを踏まえて、漏れの少ない(そして、ノイズの少ない)検索式を立てることです。

 例えば、技術(発明)の構成(発明特定事項)に関する観点について、観点Aと観点Bと観点Cを兼ね備えた技術(発明)に関する特許出願を探す場合には、観点Aと観点Bと観点Cかけ算の検索式を立てることが基本となります。さらに、それぞれの観点について、同義語(場合によっては類義語)の漏れが少ないようにして、和積の検索式を立てます。

 仮に、観点Aに対応する同義語(または、IPCFIFタームなどの検索キー)がaa'a''で、観点Bに対する同義語(または、IPCFIFタームなどの検索キー)がbb'で、観点Cに対する同義語(または、IPCFIFタームなどの検索キー)がcc'c''c'''であれば、[a+a'+a'']*[b+b']*[c+c'+c''+c''']といった形式の検索式を立てます。(なお、ここでは単純な積による検索式を示しましたが、語の間の距離(例えば、用語aと用語bの間に挟まっている文字数)の上限を条件として指定する近傍検索もあり得ます。)

 第二に、特許文献を探す範囲の設定を狭くし過ぎないことです。前述のような検索式を立てる際に、探す範囲を全く指定しないと、検索式によるヒット件数が多すぎる(ノイズが乗りすぎる)ことがあります。その場合には、IPCFIFタームあるいはテーマ(IPCの一定の範囲やFタームの集合などの技術分野を示すものとして日本国特許庁で設定したもの。)といった検索キーによって探す範囲を予め限定した上で、その探す範囲のなかで検索式による検索を行うことが多いのです。その際に、探す範囲が狭すぎると、見つけるべき先行技術文献を発見出来ない恐れがあります。

 例えば、探そうとする特許出願が、製品の要素技術に関する技術分野と、製品全体としての用途に関する技術分野の両方に関係しそうなときに、一方の技術分野だけを先行技術文献調査における探す範囲に設定すると、見つけるべき先行技術文献が発見出来ないことがあり得ます。

 第三に、特許出願に付与されている検索キー(日本の場合には、IPCFI、テーマ、Fターム)の正確性を過信しないことです。現実問題として、上記の検索キーを付与する作業において、付与漏れや付与間違いがあり得ます。そのことを踏まえた検索式の立て方や、探す範囲の設定が望まれます。

 第四に、特定の発明(技術)について特許出願した場合の進歩性の有無を調べたいときには、複数の引用例(先行技術文献)に記載された引用発明(先行技術)の組み合わせにより、特定の発明(技術)についての進歩性が否定され得ないか、という観点を持つことです。その際に、組み合わせの態様は、自社において発明(技術)を想到した際の思考の道筋と同じであるとは限らない点に注意が必要です。(なお、複数の引用例(先行技術文献)に記載された内容を機械的に組み合わせれば、特定の発明(技術)と同様であるようにみえても、それだけで、特定の発明(技術)についての進歩性が必ず否定されるとは限りません。)

 第五に、特定の発明(技術)について特許出願した場合の進歩性の有無を調べたいときには、先行技術文献調査で発見した、引用例(先行技術文献)に記載された発明(技術)をそのまま捉えるだけでなく、その発明(技術)から読み取れる技術的思想の上位概念も頭に置くことです。特定の発明(技術)についての進歩性の有無の検討の際には、引用例(先行技術文献)に記載された発明(技術)の捉え方には柔軟性が必要です。

 

先行技術調査による進歩性判断の限界

 先行技術の調査を行う際に注意したい点は、先行技術の調査によって得られた、特許権を取得できるか否かの予見は、必ずしも確度が高くないということです。仮に、先行技術として認識するものが同じであったとしても技術者の進歩性判断の相場観(技術者が認識する先行技術と検討対象技術の類似度や、技術者が認識する検討対象技術の革新性の程度)審査官・審判官・裁判官の進歩性判断(特許法第29条第2項で規定される進歩性の有無に関する判断)と必ずしも同じではありません。(弁理士のうち、審査官・審判官の経験のないひとが予見を示す場合であっても、同様の問題はありえます。)そのため、特許権は取れないと予見した技術が、仮に特許出願していたら特許権を取得できるものであったであろうケースや、その逆のケースがあり得ます。

 また、先行技術の調査を行うことにより、全ての先行技術を把握できる保証はありません。そのため、後になって、先行技術が新たに発見されることもあります

 以上のような、先行技術の調査の限界を認識しつつ、先行技術の調査を行うことが望まれます。

 

先行技術調査を公的機関に行わせる裏技

 裏技的な手ですが、先行技術の調査を必要とする技術内容について必要最小限のことを記載した書類による特許出願(仮に、「パイロット出願」といいます。)を行うことにより、先行技術の調査を事実上、日本や欧州の審査官に行わせる手法も考えられます。そのためには、特許出願の体を為す必要最小限の特許出願書類を、低費用(低コスト)で作成できることが必要となります。

 通常の特許出願であるパイロット出願を日本国特許庁に行うのであれば、出願と同時に早期審査請求を行うことにより、ほとんどのケースで出願公開前に、日本国特許庁の審査官による特許法第29条第2項で規定される進歩性の有無の判断が得られます。英語による国際特許出願であるパイロット出願を行い、国際調査機関ISAとして欧州を指定するのであれば、原則として出願公開前に、欧州特許庁の審査官による先行技術の調査と進歩性の判断が得られます。

 場合によっては、審査官の判断を得た後に、パイロット出願を取り下げることにより、パイロット出願の内容が公開されないようにすることが可能です。

 民間で先行技術の調査を行うこととパイロット出願を行うことの費用対効果の比較検討結果によっては、このような裏技的な手もとりえます。

 

参考テーマ

 

01361601…技術分析・技術動向調査・知財マクロ分析・知財セミマクロ分析

 先行技術文献調査として、特許文献や、特許文献以外の文献(論文など)を調査する場合。

 

5641…データベース・知財分析ソフト

 市販の特許(知財)分析ソフトウェアの導入や、自前の特許(知財)分析用データベースの構築を検討する場合。

 

●事例

 

・ココがポイント! 知財戦略コンサルティング 〜中小企業経営に役立つ10の視点〜

2009年3月 特許庁

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1247689

pp.85-92

株式会社ナミックス

先行技術の有無の検討がされるようになっている。

どう特許化するかを念頭において、特許のイメージを先につくり、さらにクレームをイメージして検証しながら開発するような取り組みができてきている。」

 

・中小・ベンチャー企業知的財産戦略マニュアル2006

中小機構

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1247703

pp.16-17

株式会社アクロス

地域中小企業知的財産戦略支援事業におけるモデル支援事業(2005年度(平成17年度))。

「基礎技術開発・アプリケーション開発の両段階(それぞれの開発を企画した段階)において、「開発に成功した場合にマーケットを主導できるか」という点について調査・分析を行った。そのために最初に行うべき実務手法が「特許調査」であった。

類似した技術内容の特許が出願されていなければ、技術開発を進めるとともに特許出願を積極的に行う判断になる。改良発明が生まれた場合も、改良発明が新製品のマーケット・コントロールに寄与するならば、権利化が望まれる。

類似した技術内容の特許が出願されていれば、仮に開発に成功しても、他社特許との抵触調整を強いられる。この場合は、クロスライセンス等の策がある場合を除いて、事業撤退も視野に入る。」

 

・中小企業支援知的財産経営プランニングブック

平成23年3月 特許庁

https://www.jpo.go.jp/resources/report/chiiki-chusho/chizai_planning.html

https://www.jpo.go.jp/resources/report/chiiki-chusho/document/chizai_planning/all.pdf

pp.76-77

株式会社東和電機製作所

営業部が吸収してきた顧客ニーズ製品企画と開発に落とし込む際に、営業統括部長が先行技術などを調査する体制をとっている。」

 

・中小企業支援知的財産経営プランニングブック

平成23年3月 特許庁

https://www.jpo.go.jp/resources/report/chiiki-chusho/chizai_planning.html

https://www.jpo.go.jp/resources/report/chiiki-chusho/document/chizai_planning/all.pdf

p.82

株式会社ササキコーポレーション

「商品企画から量産に至るまでの製品開発プロセスの節々で、知的財産担当者による先行技術調査情報設計担当と共有化される。企画段階で特許性が見いだせないものは製品化されることはない。」

 

●参考情報

 

特許情報プラットフォームJ-PlatPat

工業所有権情報・研修館(INPIT

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

特実意商の公報検索ができます。

 

特許・実用新案検索

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/p0100

 

特許・実用新案分類照会(PMGS)

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/p1101

 

改訂版J-PlatPatマニュアル

平成31423日 工業所有権情報・研修館(INPIT

https://www.inpit.go.jp/j_platpat_info/manual/new.html

 

高度検索閲覧用機器による閲覧

工業所有権情報・研修館(INPIT

https://www.inpit.go.jp/data/koho/s_tanmatu.html

 

「高度検索用端末利用室」を使った効率的な公報情報の検索閲覧

工業所有権情報・研修館近畿統括本部(INPIT関西)

https://www.inpit.go.jp/kinki/services.html#anchor2

 

検索エキスパート研修(上級)テキスト 第四版

 先行技術文献調査実務

工業所有権情報・研修館(INPIT

https://www.inpit.go.jp/content/100646413.pdf

 

INPITテキスト 調査業務実施者育成研修 検索の考え方と報告書の作成

工業所有権情報・研修館(INPIT

https://www.inpit.go.jp/content/100798506.pdf

 

EspacenetPatent searchAdvanced search

European Patent Office(欧州特許庁)

https://worldwide.espacenet.com/advancedSearch?locale=en_EP

 

Cooperative Patent Classification

EPO(欧州特許庁)及びUSPTO(米国特許商標庁)

https://www.cooperativepatentclassification.org/

EPO(欧州特許庁)及びUSPTO(米国特許商標庁)における特許文献の分類であるCPCの一覧があります。

 

角渕由英,「侵害予防調査と無効資料調査のノウハウ 〜特許調査のセオリー〜」,現代産業選書

 

●相談先

 

先行技術文献調査サービス

工業所有権協力センター(IPCC

https://www.ipcc.or.jp/business/specific/


 

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