経営手がかりシート・1601
(令和3年(2021年)9月版)
1601特許網・知財ミックスの構築
●テーマ名(詳細版)
特許網(パテントポートフォリオ)・知財ミックスの構築の検討
自社の現状(網、ポートフォリオ)を示すマップの作成(特許、商標)
知財マクロ分析(対業界全体。用途は対競合・対提携先)
知財セミマクロ分析(対特定他社。特許(知財)網調査。用途は対競合・対提携先)
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●テーマの説明
このテーマは、知的財産の群(例えば、特許群・特許網)の現状や将来像を分析・把握することに関するものです。このテーマは、現状分析としての側面と、経営戦略の策定としての側面があります。また、対象とする知的財産の種類は、特許のみならず、意匠・商標・秘匿ノウハウも含まれます。分析・把握する対象は自社のみならず他社であることもあります。むしろ、自社と他社を比較検討することが、現状分析においても、経営戦略の策定においても重要となります。また、分析・把握する対象が、業界・市場全体の状況や動向である場合は「知財マクロ分析」と呼び、競合・提携先・取引先(または、その候補)の他社と自社の相互関係である場合は「知財セミマクロ分析」と呼ぶことがあります。
・特許(パテント)マップ
自社や他社(場合によっては、業界全体)が有する特許の群の現状や将来像を分析・把握するために、作成され活用されるものが「特許(パテント)マップ」です。「特許マップ」は様々な態様のものがあります。例えば、分析の目的により定められたいくつかの軸により形成される空間(多くは二次元平面)上に、自社や他社が有する特許(または特許出願)を配置(または、自社や他社の特許出願数を表示)したものや、二次元平面上に特許(または特許出願)を任意に配置し、配置した特許(または特許出願)の間を線で結ぶ表現を用いるものがありえます。「特許マップ」を作成することにより、視覚的に、自社と他社の現状把握が行え、自社の今後の方針を定めやすくなります。
実際に特許マップを作成する場合には、自社で作成する目的を踏まえつつ、下記の事例や参考情報からヒントを得るといいでしょう。
・知財ミックス
特許のみならず、知的財産の様々な種類のものもあわせた権利群(または、権利群を構築すること)を「知財ミックス」と呼ぶことがあります。技術的な側面では、特許権と秘匿ノウハウを組み合わせることは常道です。また、デザイン的な側面では意匠権を考慮し、ブランド的な側面では商標権を考慮することになります。
なお、特許(または特許出願)の群により形成されるものを、特許網(パテントポートフォリオ)と呼ぶことがあります。
●参考テーマ
・0136…技術分析・技術動向調査
特許出願以外(例えば、学術論文)の情報により、技術の動向を把握したい場合。
・0616…経営戦略・ビジネスモデルの構築
自社の特許網・知財ミックスの構築を検討するのに際して、経営戦略・ビジネスモデルの検討を行う場合。
・1666…特許出願する対象の技術を絞る検討
特許網・知財ミックスの検討を受けて、特許出願する対象の技術を絞ることを検討する場合。
●事例
・中小・ベンチャー企業知的財産戦略マニュアル2006
中小機構
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1247703
pp.27-28, 107-113
大丸産業株式会社
地域中小企業知的財産戦略支援事業におけるモデル支援事業(2004年度(平成16年度))。
「大企業から知財(特許・製造ノウハウ等)・人材・商標などを譲り受けて事業を行っている。
譲渡された特許及び譲渡元の大企業との契約内容を再確認した。
譲渡された特許が(他社周辺特許との関係も含め)どういうポジションにあるかを知るために、譲渡された特許をベースに、基本特許、関連する特許、公開特許出願を一覧にして特許マップを作成した。
競合他社の特許出願動向等を調査した上で特許マップを作成し、他社の市場参入の可能性について分析を行った。」
・中小・ベンチャー企業知的財産戦略マニュアル2006
中小機構
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1247703
pp.48-57
株式会社糖質科学研究所
地域中小企業知的財産戦略支援事業におけるモデル支援事業(2006年度(平成18年度))。
「自社の保有する特許に関連する調査分析において重要なことは、それぞれの特許の事業戦略上の位置付けを把握し、注視すべき特許を見極めることである。注視すべき特許について重点的に調査分析を行った。
医薬品への応用を前提とした特許については、物質、用途、製剤(組成物・投与法)、製法(生成法・大量生産方法)の多面的な観点からの検討が必要になる。
自社の研究に関する特許情報をすべて明確にすることにより、自社特許の管理や他社特許の調査分析を戦略的に行える土台ができた。」
・中小・ベンチャー企業知的財産戦略マニュアル2006
中小機構
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1247703
pp.58-63
フィーサ株式会社
地域中小企業知的財産戦略支援事業におけるモデル支援事業(2006年度(平成18年度))。
「共同作業形態でパテントマップを作成することにより、自社の開発状況の検証・他社の開発情報の検証を行って、現状の課題意識を明確化した。検証結果をロードマップ、開発計画、知財計画に反映させた。」
・中小・ベンチャー企業知的財産戦略マニュアル2006
中小機構
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1247703
pp.65-72
株式会社アクロス
地域中小企業知的財産戦略支援事業におけるモデル支援事業(2005年度(平成17年度))。
「自社に蓄積されている技術を特定する「知的財産の棚卸し」を行った。そして、自社の技術に関連する約2000件の公開特許公報を参照して、自社の技術に関する技術動向を調査した。これらの結果を踏まえて、出願すべき発明とノウハウとして秘匿すべき発明の切り分けや、「基本発明」「機能発明」「用途発明」に分類する作業を行い、戦略立案の基礎となる自社の「特許ポートフォリオデザイン」を作成した。
「基本(コア)発明」「機能発明」「用途発明」のそれぞれについて、適した知的財産戦略をとれるようになった。」
・中小・ベンチャー企業知的財産戦略マニュアル2006
中小機構
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1247703
pp.84-91
ナミックス株式会社
地域中小企業知的財産戦略支援事業におけるモデル支援事業(2005年度(平成17年度))。
「自社の保有特許の調査及び現状分析を踏まえ、関連技術分野における技術・特許の調査、パテントマップの作成、特許の価値評価等を実施していきながら、戦略的特許出願・権利化体制の確立を図った。
パテントマップの作成では、既存事業及び新規事業の技術領域における自社及び他社の特許保有状況、潜在的市場の提示を行った。
特許価値評価では、権利自体、技術、事業の観点からの評価を実施した。自社が保有する特許の価値を明確にした。」
・中小・ベンチャー企業知的財産戦略マニュアル2006
中小機構
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1247703
pp.92-97
株式会社緑マーク
地域中小企業知的財産戦略支援事業におけるモデル支援事業(2005年度(平成17年度))。
「特許庁のデータベースなどから自社の知的財産の保有状況を検索・調査し、審査経過等を含む詳細なデータベースを作成した。
自社のこれまでの知的財産権の傾向を分析するために、技術革新度合い・製品化志向度合いの軸で過去の特許をプロットした志向別パテントマップを作成した。これにより、以前は基本技術に近い革新的な発明が多くみられたが、最近は最終製品に近い用途に関する発明が多い傾向であることを認識した。
用途に関するパテントマップを作成した。自社のコア技術の各種応用用途について国内外の特許数を記載したパテントマップ、事業別に他社の特許出願状況を記載した競合分析マップなど各種のパテントマップを作成した。これらにより、知的財産の観点での競合に対する自社の位置付けを明確化した。
自社が保有する特許の価値を、権利自体・技術・事業の三軸から評価した。」
・中小・ベンチャー企業知的財産戦略マニュアル2006
中小機構
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1247703
pp.29, 98-106
株式会社ハルナ
地域中小企業知的財産戦略支援事業におけるモデル支援事業(2004年度(平成16年度))。
「自社のビジネスモデル・技術内容を踏まえ、コア事業に関して特許調査・分析・特許マップの作成を行い、他社との技術の差別化度合いを測定した。そして、投資家に対する知財情報の情報開示に利用する「知的財産報告書」の作成を行った。
競合と認識していた他社について、単なるプロダクト競合であるのか、知的財産競合でもあるのかを明らかにできた。」
・中小・ベンチャー企業知的財産戦略マニュアル2006
中小機構
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1247703
pp.114-121
株式会社東亜電化
地域中小企業知的財産戦略支援事業におけるモデル支援事業(2004年度(平成16年度))。
「新規技術開発の一環として地元大学と共同研究をしてきた。そこで得られた成果による有望な技術に対して、共同研究開発等の申し入れが内外の大手企業から寄せられた。その際に、他企業へのライセンシングと自社展開との線引き、ノウハウなどを含めた技術の囲い込み等に検討すべきことを抱えていた。
自社の関連特許の価値評価を行い、その特許の活用の方向を検討した。
さらに、自社の企業理念・環境を踏まえつつ、各種のパテントマップを作成した。例えば、パテントポジショニングマップ(第一の軸は、「革新」「改良」、第二の軸は「製品化志向」「製法技術志向」)、研究開発の方向付きマップ(シーズ志向(基礎ケミカル志向)、ニーズ志向(応用製品化))である。パテントマップの作成により、幅広い産業分野での自社技術の展開可能性や相対的な位置付けの確認を行うことができた。そのため、自社で取り組むべき産業分野と他社にライセンシングしても問題のない分野との線引きに一定のめどを見いだすことができた。
次に、特許の価値評価及びパテントマップにより、活用可能な産業分野の検討及び活用可能な候補先企業のリストアップを行い、自社と候補先企業の接触に関する問題点(リスク)を検討した。
特許群の具体的な活用分野・用途について、アイデアの抽出と具体案の検討を行った。
共同出願に係る発明(特に大学関連)に、基礎実験に基づくもの、学究的なもの、方法的な発明が多い場合には、基本発明を核として、改良発明や周辺発明、異なる分野への応用等を含めて権利に隙間がないように、特許網を構築することが重要である。」
中小機構
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1247703
pp.121-127
アーベル・システムズ株式会社
地域中小企業知的財産戦略支援事業におけるモデル支援事業(2004年度(平成16年度))。
「半導体の設計あるいは応用技術を収入源としてるファブレス指向の企業である。収入源としては、特許開示収入、開発業務支援収入、OEM供給事業収入がほぼ同額である。半導体の設計・応用技術とは別に、いくつかの要素技術も所有している。
他社特許調査、自社の保有技術・特許の評価を行い、自社の技術・特許の置かれた位置を明確にした。注目した特許に関しては、技術発展状況、技術の応用分野について、技術発展マップを作成して、位置付けを明確にした。コアとなる技術の特許の権利評価、他社とその技術を明らかにして、特許網構築に向けて検討した。
大企業に対してライセンサーとして対等の立場となるためには、応用・改良・周辺特許などを特許網として権利化すべきである。また、一般的には外国特許も取得すべきである。」
・中小・ベンチャー企業知的財産戦略マニュアル2006
中小機構
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1247703
pp.26-27, 128-137
ふくはうちテクノロジー株式会社
地域中小企業知的財産戦略支援事業におけるモデル支援事業(2004年度(平成16年度))。
「自社技術の対象の関する特許出願動向を分析し、全体的な視野で眺めた。そして、個別の市場グループに分けてさらに詳細に特許動向を分析し、ビジネスプレーヤーや、その市場の特性等をつかんでいった。例えば、その市場はノウハウ重視の市場「ノウハウ優先市場」なのか、積極的に特許出願を行っていく市場「権利優先市場」なのか等の分析や、どのような企業グループによって成立している市場なのか等の分析を、特許出願動向から把握した。全体から、個別市場という流れで特許分析を行った。
競争優位を確保できる事業領域に特化していくために、特定事業の今後の方向性を探るには「パテントマップ」が有効である。パテントマップを作成することで、自社技術の周辺に、他社の様々な特許出願が存在し、それらは互いに技術的関係があることが明らかになる。その結果、自社技術がどの程度の競争力を有しているのか、今後の開発方向性をどこに持っていくべきかなどを検討することが可能になる。このようにパテントマップにより、自社技術の市場ポジションを把握すれば、さまざまな意思決定の参考とすることが可能になる。
実際にパテントマップを厳密に作成しなくても、同じ事業領域の複数の特許出願を眺めていくことで、頭のなかでパテントマップが作成されていくことも多い。これを経営者が把握し、知的財産戦略に反映させていくことが重要である。
パテントマップの検討によって、既に技術開発競争が激しい分野であることが判明した場合は、自社開発を中止して、製品投入による市場参入を行わないという判断もできる。
過去の開発で、その市場のキー(鍵)となる技術に関して特許出願を行っていた場合は、その特許出願をなんとしても権利化するという意思決定がありうる。権利化によって、競争が激しい分野であってもライセンス契約という手法で市場参入することも考えられるからである。つまり、知財権利化に高いウェイト、開発投資に低いウェイトという意思決定により費用対効果を高めることも戦略の一つである。
ノウハウ主導型(ノウハウ優先)市場では、知財権利化に低いウェイト、開発投資に高いウェイトという戦略がありうる。
知財戦略(知財権利化)と開発戦略(開発投資)のバランス感覚が重要である。
新規市場を開拓する計画がある場合は、競合技術の存在を特許分析によってみつけた。
特許分析とパテントマップ作成に基づく知的財産戦略の検討結果は、その後の特許出願の検討や特許事務所との打ち合わせで指針として用いている。また、当該検討結果は、知的財産面からみた事業環境を把握する上でも効果があり、事業を進めるべき方向性を固める上でも参考になった。」
・中小企業支援知的財産経営プランニングブック
平成23年3月 特許庁
https://www.jpo.go.jp/resources/report/chiiki-chusho/chizai_planning.html
https://www.jpo.go.jp/resources/report/chiiki-chusho/document/chizai_planning/all.pdf
p.72
テフコ青森株式会社
「創業当時は特許出願の主体が製造方法のみで、競合他社に真似されても防御力に乏しかった。その後、製品と製造方法を抱き合わせた出願戦略へ移行した。
特許出願した製品のみを製造販売することを事業方針に掲げている。」
・中小企業支援知的財産経営プランニングブック
平成23年3月 特許庁
https://www.jpo.go.jp/resources/report/chiiki-chusho/chizai_planning.html
https://www.jpo.go.jp/resources/report/chiiki-chusho/document/chizai_planning/all.pdf
pp.76-77
株式会社東和電機製作所
「長年培ってきた技術力を活用した顧客ニーズ対応型である。
知的財産活動の目的は終始「防衛特許網の構築」にある。」
●参考情報
・戦略的な知的財産管理に向けて
−技術経営力を高めるために− <知財戦略事例集>(案)
2007年4月 特許庁
・三宅将之、宗裕二,姫野桂一,”戦略的知財ポートフォリオ・マネジメント 「テクノロジー・ヒートマップ」による技術評価”,知財資産創造,2004年10月号,pp.4-17
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8199327
・「知財情報の有効活用のための効果的な分析方法に関する調査研究報告書」,
平成22年度 工業所有権情報・研修館 請負調査研究事業
平成23年3月 みずほ情報総研株式会社
https://www.inpit.go.jp/blob/katsuyo/pdf/shiryo/chizaijouhou2010.pdf
多く取り上げられています。
特許(パテント)マップの例も掲載されています。
・Excelを使ったパテントマップ作成方法
情報の科学と技術,60巻8号,pp.333-339,(2010)
野崎篤志
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jkg/60/8/60_KJ00006543518/_pdf/-char/ja
・野崎篤志, 無料の特許検索データベースJ-PlatPatとMS Excelで特許分析・パテントマップ作成
https://note.com/anozaki/n/nfc08d642f2a4
・川上成年,”テキストマイニングを使用した特許マップ作成手法の開発”,パテント,2019, Vol.72, No.6, pp.78-85
https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3246
・特許出願技術動向調査
特許庁
https://www.jpo.go.jp/resources/report/gidou-houkoku/tokkyo/index.html
●相談先
・特許情報提供事業者リスト集 5.パテントマップ作成サービス
特許庁
https://www.jpo.go.jp/toppage/links/johoteikyou/05map.html
・ULTRA Patent(特許庁サイトでの紹介)
https://www.jpo.go.jp/support/general/ip-intelligence/intro-3.html
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